さくらの気持ち

夫に「解雇された」と言われた私の反応

アメリカのIT企業では大規模な人員削減が始まっている。シリコンバレーでエンジニアをする夫も解雇された。夏頃から、多くの企業で人材採用がストップして解雇が始まっていたので、私たちも経済の動きを追いながら心の準備はしていた。

だから先日夫から「解雇された」と言われた時もさほど驚かず「じゃあ明日さ、いつも混んでて入れないカフェに朝から行っちゃう?」と微笑んだら、夫の表情が柔んで「ありがとう」と優しくハグされた。いくら心の準備をしていても、やはりショックではあったらしく、私にどう言おうか半日考えていたらしい。私のさらりとした反応で心が軽くなったと言ってくれた。

さらりとした反応は、私自身がアメリカで初めて解雇された時の、自分の態度への反省からきている。その日、ランチから戻ってきたら上司の部屋に呼ばれた。午後の会議のことかと思ったのでそれ関係の書類を持っていったら、そのまま解雇を告げられた。

当時、経済の動きを追うなんてした事がなかった私には、突然すぎる出来事で涙が止まらなかった。何より私は会社にVISAのスポンサーをしてもらっていたので、すぐに次の仕事を見つけなければアメリカを去らなければいけない個人的な大問題がある。不安と恐怖におそわれ、今後は嗚咽交じりに号泣してしまった。

従業員の半分が解雇されたのだが、私だけが取り乱していたため、今度は社長室に呼ばれた。そこで当たり前のことを慎重に説明された。「さくらさん。景気が悪くなると、会社は人員を削減しなくては倒産してしまうのです。理解していただけますか?」と。

自分の感情だけが剥き出しになっていたのが、我に返った。会社が従業員を解雇する必要があるのにできなかったり、従業員が会社を辞めたいのにできない仕組みの方が、問題なんだよね。それまでも、能力があるからと新しく採用された女性がお腹の大きい妊婦さんだったり、経営方針を改善するために固くなっていた上層部が、スパッと切られて入れ替えが行われているのを見てきた。アメリカの企業が常に成長できるシンプルな理由に気づかされた。

とりあえず家で散々泣き、三日後には起業を決意して動いた。半年後には「あんなに苦しかった解雇は、新たな道を切り開いて自分を成長させるチャンスだったんだ!」と心から感謝していた。そのまた数ヶ月後には、将来結婚することになる夫との出会いがあった。数年後には、解雇された会社と私の会社でビジネスパートナーシップを組むことになった。

そんな過去の経験から、進んできた道が突然行き止まりになったり、築いてきたポジションを突然失うことになっても、方向転換するキッカケなのかもとポジティブに捉える自分がいる。諦めではなく、無理にしがみついているより、さっと手放して新たな選択を切り開いていく方に力を注ぎたい。

私以上に転職や解雇や起業を経験してきた夫もそう捉えているから、さっそく切り替えて前を向いている。あとは私の直感で、夫なら大丈夫と信じている。何かあったら今まで通り二人で力を合わせていけばいい。

何があっても私のそばにいてくれたように、私も夫の味方でいたい。