アメリカでの学び

失敗作の家族写真

カメラマンを雇い、家族写真を撮りにいった。サンフランシスコの街並みを見渡せる小山でハイキングをしながら、良さげなスポットを見つけたらそのつど撮ろうということになった。私達はカメラマンを雇うのが初めてで何をどうしていいのか分からなかったけれど、ポーズのアドバイスや場所の提案をくれたおかげで緊張もなく楽しめた時間になった。

一週間後、カメラマンが選んでくれた画像データが30枚ほど届いた。この中から気に入ったのがあったら購入、ということになる。なんだけど、なんか違うな…と感じたのが正直な感想だった。こんなに枚数があって、どれも美しい背景に家族が整列してカメラに笑顔を向けているのに、なぜ私の心は揺れ動かないんだろう。

自分でも無の感情の正体がわからないまま写真を見返していると、一枚だけ様子が違う写真が入り込んでいた。犬が芝生の上でひっくり返ってお尻だけが写っていて、私がもう一匹の犬をどうにかカメラの方に向かせようとあたふたしていて、空を見上げ走る子どもに夫が寄り添っている。

この写真いいじゃん!大好き! 

うちの犬は毎日、庭の芝生の上にひっくり返って「お腹なでて~」と私にお願いしてくる。もう一匹の犬はカメラ嫌いで、レンズを向けると必ずそっぽを向き冷めた表情をする。子どもは飛行機の音がすると空を見上げ追いかける。いつもの家族の様子やそれぞれの性格がこの一枚に表れていて、今にも写真の中の日常が賑やかに動き出しそう。躍動感あふれる写真に、私は自然に笑顔になっていた。

カメラマンに返信をした。「この写真が気に入っています。こういう感じの写真が他にもあったら、見せてくれませんか?」 数日後、何枚か写真が送られてきた。

うーん。まだまだ ‘カメラマンが思う素敵な写真’ が選ばれているようだった。何度かメールでやり取りをして「こういう感じ、こういう雰囲気、それぞれの個性が出てて自由で」と説明しても、返事は常に質問で、私の好みがきちんと伝わっていない気がする。 

カメラマンに言い方を変えて返信をした。
「あなたが失敗作だと思う写真を送ってくれませんか?」

数日後、私が思う素敵な写真がたくさん送られてきた。躍動感あふれすぎてブレているのもあって、その瞬間の楽しさまでもが伝わってくる。家族それぞれの個性を知る、私達家族にしか分からない良さ。誰もカメラの方向を見ていない。見れていない。表情も動作も静止してから撮った写真ではないから、その一瞬の一枚が大切な思い出だった。たくさん写真を購入し、印刷して壁に飾った。

今回雇ったカメラマンは、半年前にアメリカに越してきたと言っていた。前職は違う仕事をしていて、カメラマンとしてのキャリアを進み始めたばかりだそう。私もカメラマンを雇うのは初めてだったので、お互いが分からない部分を学び合い経験を積んでいるようだった。

一枚の写真を見ても、人の数だけ感情がある。家族全員が整列して真正面を向いて笑っている写真、ではないのが好きな人もいる。それが分かっていればいいのだけれど、私のようにどんな家族写真を望んでいるのか分からないので事前にリクエストを出せず、写真が出来上がってからだんだんと好みのテイストが分かってくる人もいると思う。

サンフランシスコは子どもの数より犬の数の方が多いと言われているほど、犬フレンドリーな街。家族写真に犬が参加する確率も高い。カメラマンは犬と仲良くなるためにボールを持参してくれ、撮影前に遊んでくれようとした。でもうちの犬はご褒美のおやつがもらえないとボールを拾いにいかない。だからカメラマンが遠くに投げたボールは犬たちに冷たく無視され、申し訳なさそうに夫が拾いに行っていた。そういうこともカメラマンとして経験したと思う 笑。

いろんな犬がいて、いろんな人間がいること。

最後のメールで「今回の撮影で自分の好みの写真を知れました。次回また家族写真をお願いしたいです」と伝えたら、「次回はポーズのアドバイスや場所の提案などはせず、ありのままの家族の姿を撮りますね。あと犬のおやつも忘れずに持っていきます!」と返信がきた。

普段はスマホで写真を撮っていたので、いつも私か夫のどちらかが写っていなかった。それかセルフィーで撮るので、いつも私か夫のどちらかの顔がドアップになってた。カメラマンに家族写真を撮ってもらうっていいな。

年に一度は、思い出や成長の記録を写真に残していきたい。

不登校の娘が教えてくれた「親が自分と向き合い、自分を大切にすること」チェさん編 今の日本は不登校児が劇的に増えています。学校の存在、不登校に対する概念も私が子どもの頃のものとはだいぶ変わってきています。ですが、学校...
旦那さんの特性を知ると同時に、私は私と向き合う必要がある / まおさん編 つい2週間ほど前に10年間連れ添ってきた旦那さんがアスペルガーなのではないかと確信し、アスペルガーの情報をいろいろと集めようとし始めた...
アスペルガーをモンスター化させていく妻の愛着障害 / しろさん編 夫がアスペルガー症候群、私がカサンドラ症候群ではないかと気が付いたのは、今年の1月でした。結婚して20年です。壊れかけた夫婦関係を見直...