夫婦円満のヒント

今だから疑問に思う、野波ツナさんの本

この本からでは知れないこと

  • カサンドラ症候群という名前が広まっているのは日本のみ
  • 夫婦ふたりが生育歴から全体的を視野に入れ自己分析する必要性
  • 夫婦のパートナーシップはどちらか一方に全責任があるものではない
  • 夫婦関係がうまく行かない理由に「パートナーが発達障害」は1つの理由にはなると思うが、1つの理由に過ぎない

生育歴を知るとアスペルガーの特性ではなかった

夫がアスペルガー症候群と診断されてから一番初めに買った本が、野波ツナさんの「旦那さんはアスペルガー」シリーズ。アメリカではカサンドラ症候群という名前は知られていないので、カサンドラ症候群はツナさんの本で知った。とりあえず全巻買った。

読めば読むほど、アキラさん(ツナさんの旦那さん)とアランが重なってびっくりした。ツナさんが感じる悲しみ、怒り、期待、落胆、全ての感情が、私が夫に対して感じたことのあるものだったから。

特に私が悩まされたことは、夫の金銭感覚と夫と母親との関係だったので、アキラさんも同じ問題があったと知った時は「*アスペルガーと関係していたんだ」と衝撃を受けた。

*補足:当時はそう思っていたが、アスペルガーと関係していたわけではなかった。夫の場合は夫の育った家庭環境と両親の性格からの影響

下の図も当時は信じていたが、生育歴を知る重要性を知ってから、夫には当てはまらないことに夫婦関係の改善が落ち着いた後の今、気づいた。

親子関係も、夫にとって自分の母親が1番の家族なのではなく、夫の両親が良好な夫婦関係を築けていなかったために起こった。自分の夫からでは満たされない欲求を母親が子ども達に求め、依存していた結末だった。母親による、子離れできていない問題。

アメリカのカウンセリングで受けた説明では、アスペルガーの特性の強弱にもよるが、幼少期から人一倍手のかかる子育てにより、母親が子どもに過保護や過干渉になってしまうケースが多いという。それが親子関係の歪みを招き、親からの自立を妨げてしまう。精神的自立を含む。

現在の事実が似ていても、そこに至った経緯を辿る作業は重要だと思う。人それぞれ歩んできた歴史は違うのだから。

視点が妻側に偏っているのが目立つ

この漫画は、妻側の視点中心で描かれている。アキラさんの主張が書いてあるが、ツナさんが更に混乱したままエピソードが終わっていたり、アキラさんの気持ちが不明なために想像して書かれていることもある。

アキラさんがなぜそのような行動に至ったかの本当の理由は謎のままが多く本心を知りたくなる場面が多々あった。エピソードにこのような終わり方が多いと共感ではなく「結局はアスペルガーの夫が非常識だった!」となるので、相手の意見なく妻側が有利になる点は残念。

自分自身を知る前に相手を知ろうとすると、自分の感情的な反応は全て相手のせいだと思ってしまう場合もある。被害者意識が強くなってしまう恐れがある。

話し合いで夫が答えてくれなくてフリーズしてしまうのは、夫が幼少期に育った家庭環境で自分を守るため身に付けた「防衛機制」であることが分かった。トラウマが絡んでいる。悩みがあっても心に寄り添ってくれる大人がいなく、誰かに相談して一緒に解決する経験をしてこなかったのだ。アスペルガーだから、ではない。

そして結婚後、夫のフリーズはエスカレートしていく。妻の私が追い詰めていた結果でもあった。

この頃の私は、自分にも向き合えていない頃。夫は私の感情的なリアクションを見て、何も話さない方が良いと学んでいったそうだ。ただでさえ結婚当初から夫婦のパートナーシップの基礎を築けていなかったのに、どんどん悪化していった。

必要な時に話し合いができない。これは二人が招いた結果。突然ある日起こった問題ではない。

あの頃、私の心の状態では救われたと感じた

長い間辛い思いをしてきたのは自分だけではなかったんだと「カサンドラという言葉を知ったばかりの人」には、共感溢れる読みやすい漫画だとは思う。(それがいいという意味ではない)

あの頃、私の心の状態では救われたと感じた本だった。でも今振り返れば、ツナさんの本を読むたびに、「そうそう!やっぱり夫がおかしいんだ!」と思ってしまい、夫に「アキラさんもあなたとそっくりな問題があるよ!やっぱりアスペルガーの問題なんだよ!」と文句を言っていた。物事に対してアキラさん側の気持ちや主張が少なすぎて、妻側の視点=夫がオカシイ、になっているからだと思う。

今振り返ると当時の私の気持ちが客観的に分かる。この本を読んで救われたのではなく「自分は悪くない、全てはアスペルガーの夫のせいなんだ!」という証明を見つけた気持ちになってしまっていた。だから夫へのあたりも冷たく強くなっていた。

「自分自身に向き合う」という項目はどこ?

カサンドラ症候群を本当に乗り越えるために必要な、「自分自身に向き合う」という項目がおまけのように小さく描かれているだけなので、今は疑問を感じる。

発達障害の参考書ではなく「夫婦」をテーマにしているからこそ、カサンドラ症候群だと思っている側の育った環境や、生育歴からくる関係性にも目を向けてあげるようなエピソードも読みたかった。

ここに出てくる専門家の方も、そこは触れない内容で本当に良かったのだろうか?

夫婦関係とは、一方のみに焦点を当てるものではないはず。実際のカウンセリングはそうである。そして、発達障害の特性だけで夫婦関係が拗れているわけでもないはず。夫婦関係がうまく行かない理由に、パートナーが発達障害、は1つの理由にはなると思うが、1つの理由に過ぎない。

フォロワーさん達が勘違いしていた点

「カウンセリングや病院に行けば、この漫画のように専門家が夫のアスペルガーについて分析してくれて関わり方を教えてくれると勘違いしていた」

フォロワーさん達から実際にあった声。

この漫画は、専門家の人が妻に向けて、夫のアスペルガーについて解説する場面がたくさん出てくる。このような場面は、実際のカウンセリングや診察では見られない光景。多少の説明はあると思うが、カウンセリングに来た人に向けて、そこにはいない別の人についての細かな診断のような内容でカウンセリングが進むことはない。

カウンセリングは自分のために、自分の生きづらさや悩みを楽にするために行く場所。カウンセリングがまだ馴染みはじめてきたばかりの日本では、カウンセリングの目的を誤ってしまう人もいると感じた。

レビューを読んで

この本のネットレビューを読んで気づいたことがある。自分自身にも向き合うこと(考え方や感じ方の癖、結婚前からの心の病、過去のトラウマ、生育歴から自分を知る、など)を知り、自分側の改善点も見つける必要性を理解しながら、夫婦関係の再構築を頑張ろうと前向きな気持ちになっている人が見当たらない。

ツナさんは自分の価値観や常識、理想の見直しなどについて書いていないわけではない。被害者意識を手放すことの大切さも書いてある。しかし、アキラさん側の問題を紹介する時は、専門家による分析も含めて具体的な例をあげているのに比べ、ツナさん側の改善点は表面上を触れている程度である。夫婦の問題が起こった時にアキラさんの特性に集中しすぎているためか、妻側が自分自身に向き合う大切さにおいては、読者には伝わっていない可能性がある。

やっぱり別居か離婚しかないのかと諦めの気持ちになっている人達もいる。それが夫婦で真剣に向き合った結果の形ならいいと思うが。

今まで辛かった自分の気持ちを事細かく表現してある本、それは私もすごく共感できる。アキラさんの言動がまるでうちの夫の言動、すごく共感できる。だから「今が辛い人」からは高いレビューがついてきていると思う。

「自分の気持ちを分かって欲しい!」その思いが強ければ強いほど共感できるとは思う。(それがいいという意味ではない)

一方で、「アスペルガーが全部悪い、と言っているような内容で疑問を持つ。傷つく」という当事者のコメントもあった。アスペルガーへの偏見に繋がる広まり方になってしまう面はある。

こう思えるのは、夫も私もアスペルガーの特性だけに焦点を当ててしまうのではなく、生育歴から全体を見る大切さを知り、自分自身に向き合うカウンセリングを受け、夫婦関係の再構築をしての今だからだ。事実、大人になってからアスペルガーと診断された場合、特性を理解されて育っていないので生活の様々な場面で葛藤があったはず。その経験から、自分なりに生き抜く術を身につけている。「アスペルガーの特性」のみを摘み出すのは難しい。

私はカサンドラを知ってからも辛かった。知ってしまったから辛かったのかもしれない。でもその辛い気持ちは、夫が100%原因ではなく私が自ら招いているものでもあった。自分を知ることはそういうこと。問題は、私の心の中にもあった。

相手を見て自分を見つめ直す必要性

今後の夫婦関係の本は、内容が変わっていくと思う。変えていかなければ本当の意味で心の辛さは消えない。相手ではなく、自分自身を知り、自分の心にも向き合う必要がある内容は十分にあって欲しい。他責思考が強まらないように。自分の幸せは、相手次第ではない。

「相手を見て自分を見つめ直す必要性」は大切な項目だと思う。

最後に。これは、野波ツナさんの漫画シリーズを読んだ私の感想です。カサンドラ症候群のような状態の原因は相手のアスペルガーなのか?から始まり、書き方、描き方、夫婦問題の注目点、物事のどの面に着目しているのか、などに疑問に感じたものです。

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